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クレイフェイス

ルッキズムやアイデンティティというテーマの裏に隠された映画会社の意地にワクワクする映画

調子に乗ったイケメンの映画スターがマフィアのボスの女に誘われて一夜を共にしたらボスの怒りを買って顔をぐちゃぐちゃに切り刻まれちゃって、人生絶望して復讐の鬼になる映画、と思いきやじつはその裏側にすごく深い映画会社の意地を感じる映画でした

先に結論を書くと、この映画はディズニー帝国に対するワーナーのリベンジ映画作品だと思いました

この映画を観た人なら気づくのが、まず低予算感が盛りだくさんなこと

主役のトム・リース・ハリーズはイギリスでは知られているけど世界的にはまだ全然有名じゃない俳優

しかもおでこの皺もすごいし若くないし超絶イケメンか?と聞かれると、うーんまあまあって感じの微妙な感じ

この時点で「あっこの映画は有名俳優を起用してない低予算映画なんだな」と気づきます

だって、タイトルがクレイフェイス(粘土の顔)っていうくらい「顔」にこだわった作品なのに有名イケメン俳優を使っていないから

例えばこの主役がヘンリー・カヴィルやトム・ホランドやジェイコブ・エロルディやティモシー・シャラメやライアン・ゴズリングやクリス・ヘムズワースやオースティン・バトラーやニコラス・ガリツィンだったらまだ説得力があるんですが・・・

でも有名なイケメン俳優を使わないっていう時点でこの『クレイフェイス』という作品は俳優の集客力や話題性で観客を呼び込もうとしているのではなく、その作品性(中身)で勝負しているのがわかるのです

実際にこの『クレイフェイス』は制作費が約4000万ドルでDC映画としては低予算

一般的なDCの大作映画は2億ドルくらいなので約1/5の予算で作られていて、ディズニーの大作映画と比べると約1/9の予算で作られているんです

1/9ですよ、1/9

すごい規模感ですよねディズニーって

そしてこの『クレイフェイス』がいかに低予算かがわかるはずです

同じワーナー映画の中でも低予算なんです

なんか可哀想になるこの制作人

そしてクレイフェイスというキャラ、ジョーカーに比べたら全然有名じゃないですよね

なんで?なんでクレイフェイス?って感じで・・・

有名じゃないキャラクターを掘り下げた映画を有名じゃない俳優で低予算で作ってるんですよ

この絶対に売れない=数字稼げそうにない負け試合確定の感じすらある組み合わせで、あなただったらどういう作品を作りますか?って話です

そして冒頭の結論に戻りますが、この『クレイフェイス』という映画は予算潤沢なディズニー帝国に対するワーナーのリベンジという裏テーマに気づくとすごくストンと納得できるんです

そもそも原作のクレイフェイスは複数あって設定もいくつもあるんですけど1番近いのは1992年のアニメ版『バットマン』のクレイフェイスだと思います

この1992年版では人気俳優が事故で顔を損傷して特殊な美容薬品を使用するんですけど、その薬品を悪徳実業家に利用されて犯罪に巻き込まれるんです

これ、今回の『クレイフェイス』という映画では大きく変わってる部分があるんですよ

まず主人公のトム・リース・ハリーズ演じるマット・へーゲンは人気俳優なんですけど、クラブでエロいダンスして誘ってきたマフィアの情婦ミア・トーレス(演じているのはポルトガル出身のジョアナ・リベイロ)と一夜を共にしたことで顔を切り刻まれちゃうんです(事故じゃなくて事件)

このミア・トーレスの初登場シーンなんかわざわざスローモーションにしてドレスの隙間から乳首をチラ見せするこだわりっぷり

思いっきり官能的でセクシー系の女を強調していて、舌の上に乗せたドラッグを主人公のマット・へーゲンに飲ませちゃうんですけど、かなりのビッチであることを強調しています

そして主人公のマットはマフィアのボスであるザボ(演じてるのはデヴィッド・デンシック)に朝目覚めるとベッド周りを囲まれていて手下に手足を押さえつけられながらナイフで顔を切り刻まれちゃうんです

そしてこのザボが陪審員を買収したり主人公のマット・へーゲンの弁護士まで抱き込んで裁判で無罪を勝ち取ったり財力に物を言わせて自分の思い通りにして主人公を追い詰めていきます(この買収しまくる描写がディズニーっぽいなあって思った最初のキッカケ)

そしてなんと、このザボ、映画業界に乗り出して自分で映画を作り始めるんです

おかしいですよね、なんでマフィアのボスがわざわざ映画事業に乗り出すんだよって

違和感しかない

そこで気づいちゃったんですよ

カネに物を言わせて買収しまくって映画を作っているのは?

そうあのディズニーです

財力と権力でだれも逆らえない状態にしておいて映画を作っちゃうんですから同じ映画人である主人公のマット・へーゲンからしたらそりゃ無視できないわけで

つまりこの映画は主人公マット・へーゲンがワーナー自身であり、ザボという映画業界でマフィアのボスみたいな存在であるディズニーに復讐する物語だと気づく流れになっています

では主人公をエロいダンスで誘って一夜を共にしたボスの情婦はなんのメタファーかというとずばりディズニーファンを当てているんです

ディズニーファンってとりあえずディズニーの作品ならなんでも観るしディズニー最高みたいな感じだし、たまに気分転換にワーナーの映画も観るけど基本的には常にディズニーの味方なわけで、世間の大勢のディズニーファンをビッチ女に例えてるんですね(この映画の制作人は低予算なのがよっぽど悔しいんだろうなあ)

スターウォーズとかトイストーリーとかディズニーランドとか好きな人がたまにバットマンの映画やジョーカーの映画を評価してくれるみたいな感じなんでしょうね

時々は評価してくれるけど、基本的にキミたちが好きなのってなんだかんだ言ってディズニー映画じゃんかっていう

でもワーナーの心の中ではそんなディズニーファンがセクシーで(お客としては)魅力的に見えちゃうんでしょうね

そしてたまに観客を振り向かせたと思ったらディズニーの怒りを買ってしまっていろんな作品(スターウォーズやトイストーリーなどのピクサー作品やディズニー映画)でボッコボコに叩きのめされちゃうっていう状況

主人公の顔を傷つけるって行為はワーナーの看板商品であるバットマンやスーパーマンがトイストーリーやマーベルのヒーローたちの人気に負けちゃうっていう象徴的なことなんだろうなと

ワーナーにとっての顔っていったらやっぱりバットマンになると思うので(この『クレイフェイス』という映画もバットマンの世界観の作品ですし)それで勝負したい=元の顔に戻りたい願望として映画で描いているのが心苦しくなりますね

新しい顔になるでもなく、傷つけられてもなんとかして元の顔に戻りたいっていう願望

傷つけられちゃって世間から冷遇される主人公がまるでバットマン映画がヒットしなかったときのワーナーの心境なんだろうなと思うとグッと胸に迫るものがあります

そしてそんな主人公に優しく接してくれるのがナオミ・アッキー演じるケイトリン博士

彼女は特殊なナノマシン=AIで主人公の顔を再生してくれます

これもすごく象徴的なんですけど、低予算で傷ついたワーナーがディズニーに立ち向かう武器ってAIなんですね

余談ですがワーナーもディズニーもAIには前向きで積極的に取り入れようとしてるんですけど、ディズニーはユニバーサルと一緒に画像生成AIの会社を提訴したりしてて、どちらかというと自分たちの権利を守ることにすごく敏感な感じがします

AIの力で元の顔を取り戻した主人公マットは心がざわつくと顔が崩れちゃうんですけど、それってやっぱりザボの存在が気になってるわけで

つまりワーナーとしてもどうしてもディズニーの影響を無視できないってことなんでしょうね

そんな顔が崩れたピンチの時にいつも優しく接してくれるケイトリン博士に次第に心惹かれていくんです

そしてこのケイトリン博士すごく優しいんですよ

主人公を利用して犯罪に巻き込むなんてこともしません

そっとそばにいてくれて癒してくれるんです

そして意見はズバッと言っちゃうっていうキャラ設定なんですよ

このズバッと意見を言っちゃうっていう設定ですぐわかりました

このケイトリン博士は「映画マニア」のメタファーなんですね

「映画マニア」だから意見ズバッと言っちゃうし、ザボ(ディズニー)に迎合することもないんです

そして主人公であるマットにも率直な意見を言います

映画の感想を率直に言う映画マニアのメタファーで間違いないと思いますね

じつはこのケイトリン博士だけは主要キャラの中で唯一生存するんです

つまりいろんな人を殺しまくる怒りに燃えてる主人公マット(ワーナー)が愛してやまないどうしても守りたい存在は映画好きであり率直な感想を言ってくれる映画マニアだということです

なぜならそういう人にしか自分(この『クレイフェイス』という映画)は評価されないから

このケイトリン博士を演じるナオミ・アッキーが黒人で微妙にぽっちゃりした体型ですきっ歯でいつもダサい服装なのもポイントです

ディズニーファンの象徴であるミア・トーレス役のジョアナ・リベイロは白人でスタイル良くてセクシーで乳首見せててビッチに描いているのとは対照的で、ケイトリン博士は全然ビッチじゃありません(主人公のマットにキスされるけど拒否ってしまいます)

これだけわかりやすく対比させているのが象徴的で、遠回しにディズニー映画ってだけで評価してる人たちをディスってるのが面白いですね

ディズニーの象徴であるザボがマフィアのボスでクズなわけですけど、その財力でメロメロになってるだけで人間としての中身なんか見てなくってただお金のかかった作品ってだけで評価してるやつは全員ビッチだっていうこの『クレイフェイス』という映画の制作人の心の叫びが聞こえてきそうです(そりゃ予算1/9だもんねえ)

このケイトリン博士には婚約者のジョン刑事(演じているのはマックス・ミンゲラ)がいるんです

これも面白い部分なんですけど、あんまり上手くいってない(倦怠期)っていう設定なんです

先ほどのケイトリン博士が映画マニアのメタファーであるならば、このジョン刑事はなんのメタファーなんでしょうか?

このジョン刑事はザボの脅迫にもなびかないゴッサムの汚職警官の中では珍しい真面目な警官として描かれています

ザボからしたらうざったくてしょうがない存在なんです

ジョン刑事のセリフで安月給っていうセリフがあるのがポイント

安月給なのにザボ(ディズニー)が恐れる存在であり、映画マニアのメタファーであるケイトリン博士から愛される存在

つまりジョン刑事は低予算ながらいい映画を作る映画制作者のメタファーです

ディズニーみたいな予算規模はなくても低予算でいい映画を作っちゃう人、だからこそケイトリン博士(映画マニア)から愛されているんですね

でも倦怠期を迎えている、つまり低予算でいい映画もいいけど、それだけだとちょっと物足りない(本当はセンスのある人に豊富な予算で大作映画を作って欲しい)っていう映画マニアの気持ちを反映させているんです

ワーナーのメタファーである主人公マットにしてみても、やはりジョン刑事(低予算でいい映画を作る人)はムカつくわけで、やっぱり殺しちゃうのは当然でしょうね

この低予算でいい映画を作る人っていう部分をもう少し詳しく言うなら、特定のキャラクターに頼らない映画と言えます

ワーナーもバットマンやスーパーマンマンのキャラクターに頼っていて、ディズニーもミッキーやスターウォーズやトイストーリーのキャラに頼っているわけです

このキャラクターに頼らずに映画を作る人、というふうにジョン刑事を考えるとディズニーであるザボからも嫌われて、ワーナーである主人公マットからも嫌われるのがすごく納得です

そしてキャラクターものだからといって評価したり観に行ったりキャーキャー騒ぐ映画ファンではなくて映画マニアであるケイトリン博士はジョン刑事を殺されたことで主人公マットを亡き者にしようとします

この『クレイフェイス』という映画制作者からしたら、なんとか映画マニアに振り向いて欲しくて頑張ってるんですけど、やはりワーナーとしてはキャラものでしか映画制作がなかなかできないという現状があるんでしょうね

それが主人公の「どんな顔にもなれるよ」と言ってジョン刑事の顔になったセリフからわかります

どんな顔(作品)だって作れるよ、という『クレイフェイス』の制作人たちの本音がそこで出ているんですけど、映画マニアのメタファーであるケイトリン博士からしたら「いやいや見た目が違ってても中身が違うだろ」ってなるわけで、イケメンな見た目に飛びついてきたディズニーファンの象徴であるビッチ女のミアとはそこが決定的に違います

ディズニーのメタファーであるザボに情婦であるミアがいて、キャラクターに頼らない低予算でいい映画を作る制作人のメタファーであるジョン刑事に映画マニアのケイトリン博士がいるとすれば、ではワーナーのメタファーである主人公マットの理解者(ファン)はだれ?ということになりますが、これはこの『クレイフェイス』という映画を鑑賞している現実世界の観客自身であると考えていいと思います

この『クレイフェイス』という映画をそもそも観ている時点でファンであるわけで、まずそれが証拠なんですが、もう一つ言えるのはこの映画でさまざまな感情の変化を主人公マットと経験するとことです

傷つけられて可哀想とか、元に戻ってよかったとか、主人公と感情を共有していくうちに知らず知らずに応援していることに気づくはずです

特に最後の山場であるクラブでの乱闘シーン

主人公マットがザボのアジトであるダンスクラブに乗り込んで行って手下の顔になりすましながら一人ずつ始末して最後にザボに復讐するシーンは応援したくなりますしスカッとするシーンになっています

これも面白くってザボ(ディズニー)の手下をその手下の顔になりすましながらやっつけるわけですが、ワーナーの「おまえのその作品くらいおれでも似たようなの作れるんだからな」っていう怒りが見え隠れしていて思わず笑いそうになりました

スターウォーズだろうがトイストーリーだろうが似たような作品ならその気になればワーナーでも作れるしなんならもっと上手く作れるぜっていう『クレイフェイス』制作人の憤りが聞こえてきましたね(予算が1/9ですからねえ)

ザボとの最終決戦で自分の顔の血で相手(ザボ)の顔を濡らし、その血が戻る力で相手の顔を引っぺがしてやっつけるシーンも象徴的で、これようするにディズニーのキャラクターをこっち(ワーナー)のキャラクターでやっつけてやるぜっていうすごい意気込みなんですよね

バットマンがミッキーより人気になったらいいな、みたいな

自分の顔を傷つけてそれで相手の顔をやっつけるわけですから、ディズニーのキャラクター人気に対抗するためにこっちはなんでもやるぜっていう気合を感じました

最後のドロドロになって下水管に流れていっても生き続けているところはどんな逆境でもめげずに映画制作をしていくぜっていう気合ですし

最後にドロドロのケイトリン博士と抱き合った自作自演も深読みしてくれる映画マニアへの賛辞ですし

ワーナーとしてはディズニーファンみたいな(ディズニーの映画だったら毎回観にいくくらいの信者)が欲しいんでしょうけど、それよりも映画マニアのファンの心を掴みたいっていうオチでしたねあれは

最後の雄叫びは低予算でもいい映画を作っただろ!っていう声に聞こえてきます(1/9ですしねえ)

そしてこの『クレイフェイス』という映画がアイディア勝ちしているのは、顔を変えられるという設定を使って役者のやる気を起こさせているところにすごく好感を持てました

主人公のマットが復讐する相手や倒した相手の顔をコピーして成り済ますわけなんですけど、演じているのは当然ながらその相手役の俳優なんです

つまり顔をコピーしている時だけは、端役でも主役になっているんです

ほんの数カットだけなんですけどメインキャストじゃないのに主役級に大写しになったりするのですごく目立つわけでして

主役じゃないのにいろんな俳優が主役級の写り方をするのでそりゃあもうそのカットを演じている時はめちゃくちゃ気合が入っているのがこっちまでわかります

物語上では同じ主人公のマットなんですけど、演じているのはメインキャストじゃない脇役の俳優さんで、それなのに主人公マットの雰囲気を出していたり細かいお芝居をすごく頑張っているのが好感持てました

だからこそ俳優のやる気が上がりカットに説得力が出ていて低予算なのに映像のクオリティが高かったように思います

これは実際の制作現場を知っている人ならではのアイディアだなあと思いましたね

このクレイフェイスというキャラクターなら低予算でも俳優たちが必死に演じてくれて熱量の高い映像になるとわかってたんでしょうね

以下蛇足

ワーナー・ブラザースは1923年4月4日創業でディズニーは1923年10月16日創業です

なんとどちらも同じ1923年創業なんです

そして映画会社としての歴史はワーナーのほうが先輩なんですね

でも会社の規模はディズニーが944億ドルに対してワーナーは373億ドル

ディズニーはワーナーの2.5倍の規模です

ディズニーが巨大な資本力で世界中に作品を展開していく方針に対して、ワーナーは小さな予算で尖った作品を作っていく戦略のようです

全米初登場1位でしたが、2週目は57%も興行収入が落ちてしまい、勢いが長続きしたとは言えない作品です

全米だけで製作費相当の興行収入には届いたものの映画館側の取り分や宣伝費用があるので、黒字かどうかは微妙なところなのかなあと

大ヒットしたわけではないけど、製作費4000万ドルで全世界で約9200万ドルまで伸びているので、キャラクター映画としてはとりあえず成功していると言えると思います

ぼくはこの『クレイフェイス』という映画を映画館で鑑賞したのですが、入場時にA3相当サイズのポスターを無料配布していました

これ、ペラっと紙のポスター渡されるんですけどけっこう大きいんですよ

丸めて持って帰ってきましたけど、ほとんどの人が折り畳んでしまってました

つまり邪魔になってるんですよ

例えば映画ちいかわ『人魚の島のひみつ』では入場時に書き下ろしクリアカードがもらえて、『ゴジラ-0.0』では入場時に光るゴジラフィギュア(全長5cm)がもらえるんですよね

それに対して『クレイフェイス』はでっかいポスターをペラっと渡されるっていう

持ち帰ることを考慮したらクリアカードや小さなフィギュアのほうが観客は嬉しいと思うんです

だから何度も足を運ぶ人もいるわけで

やっぱりそういうところが不器用な感じも個人的には応援したくなる映画でした(なんていうか、女性とデートした経験のない男の子が初デートでいきなり大きなぬいぐるみをプレゼントしてきたみたいな感じ)

ぼくは素敵だと思いましたよ、ええ

でも次からはポストカードだったら嬉しいなあ