ファントム/開戦前夜 画像

ファントム/開戦前夜

ファントム/開戦前夜

いろんな潜水艦映画の要素を散りばめたお得な映画。ザ・平均点って感じ。
潜水艦映画にハズレなし、とは良く言ったもので基本的にどの潜水艦映画も面白い。
密室劇だし、緊迫した男たち(無言)を映していればそれだけで物語がすすむ(演技が下手でも関係ない)
おまけに大きな動き(殺陣)もないし、潜水艦の戦闘シーンは暗い海中なので安っぽいCGでも作れる。
さらに秘匿性の高い兵器なので、堂々と嘘っぱちだと声高に叫ぶ人がいない(もしも内部事情を知ってる人がいても機密保持で言わない=セットの嘘がバレにくい)
適当に調理してもおいしくなる万能素材だと思う。
それぞれの潜水艦映画では差をつけようとあれこれ味付けを変えてくる。
『レッドオクトーバーを追え!』は最新の潜水艦を亡命に使う老艦長のショーン・コネリーが持ち味だし、『クリムゾン・タイド』では狭い潜水艦の中で核兵器を巡って乗っ取り合いをする、『U571』では少ない人数で敵の潜水艦を操りながらマシュー・マコノヒーが艦長として成長していくし、『K-19』では艦の修理のために乗組員たちがどんどん死んでいく。
この『ファントム 開戦前夜』はそんな数々の潜水艦映画の要素を少しずつ取り入れながら全部盛り合わせた映画。
出てくる人物や設定やお話の流れがみんなどこかで観たことある展開ばかり。
それぞれ盛り上がるシーンになってはいるけれど、そのかわりどれも薄味になっている。
それでもこの映画を最後まで観ようと思っちゃうのはそれぞれの役者がいい味出してるから。
旧式の潜水艦をあてがわれて最後の任務につく老艦長をエド・ハリスが演じている。『ザ・ロック』の傭兵部隊を指揮するように今回は潜水艦を指揮する(副官のウィリアム・フィクトナーは『ザ・ロック』ではSEALsの隊長役でエド・ハリスと共演してた)
この旧型艦というのがロマンをくすぐられる。性能で言えば最新艦に遠く及ばないわけだが、この老艦長の戦術で原潜とも互角に戦っていくところは見所の一つ(なんとなく『レッドオクトーバーを追え!』のショーン・コネリーっぽい)
さらに無理矢理核戦争を引き起こそうと艦内で企むデイヴィッド・ドゥカブニーとも戦う(Xファイルの捜査官が核戦争を起こすあたりがキャスティング上手いよね)
エド・ハリスの、かつてのトラウマを告白し、そこから核戦争を引き起こそうとしている敵の正体を暴き、阻止を決意して立ち上がる演技は素晴らしかった(ライバルであるマルコフはなんとランス・ヘンリクセン!『エイリアン2』のアンドロイド)
なんかねえ、全体的にオヤジ向けの映画だと思う。若いイケメンは出てこないのでご婦人方は退屈すること間違いなし。
おまけに若い人はこの配役の妙がわからないからつまんないし、ある程度昔(90年代くらい)の作品を観てる人じゃないと伝わらないと思う。
ええ、ぼくは楽しめましたよ。ランス・ヘンリクセンが鼻にカニューレ刺しながら酸素ボンベ引いてるし。エド・ハリスが脳損傷で発作を起こしたりしてて、思いっきり枯れてる演出が多いので。
脂の乗った時期を過ぎて枯れてる俳優のいい感じの色褪せた演技が楽しめる人じゃないとつまんないと思う。
逆にこういうのがハマる人はめっちゃハマるはず。
正直こんなB級映画にしては(失礼ながら)すごい俳優ばかり。
こんな顔ぶれが、狭い潜水艦の中で密着して演技をする。
そうこの映画は最初から最後まで潜水艦映画である(女の人は冒頭以外では基本的に写真でしか出てこない)すごく硬派な感じが好感持てる。
休暇を途中で切り上げさせたから半分は補充兵で、身元があやふやなのもソ連っぽさを演出してて良かったと思う(そもそもここからして後々の伏線になっているっていう)
全然期待しないで観たらなかなか良かったです。
閉所恐怖症の潜水艦乗りがいるって時点でちょっと嘘くさいし、ファントムっていう装置も嘘臭さ抜群でB級感丸出しですが(『ローレライ』の香椎由宇レーダーよりはマシかなって程度)
潜水艦映画ってあんまり作られない気がするので、気負わずに気楽に作ってくれたらいいな、と思う(ただし俳優にはこだわって)
この映画は映画通の人からしたら物足りないんだろうけれど、普通に映画としては十分楽しめる範囲(というかこれを観れば一通りの潜水艦要素を楽しめるので潜水艦映画の入門用としては手頃じゃないかな)
潜水艦映画をあまり観たことない人に潜水艦映画の良さを簡単に説明できる盛り合わせ映画なのでした。