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キング・アーサー

難しく考えなくていいオリジナル風味のアクション史劇映画

まず、冒頭のでっかい象さんが暴れているシーンを観て、ここで賛否が分かれると思います

CGバリバリだし、アーサー王物語に忠実に作っているわけじゃないなと気がつきます

ガイ・リッチー監督の独特な味付けが全編に渡って楽しめます

例えるなら同じガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ』や『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』みたいな感じです

ようするに硬派な感じを期待しちゃダメ

素早いテンポやスピード感の緩急を楽しむ映画

難しく考えなくていいし、スタイリッシュなアクション映画だと思って観れば十分です

内容は両親を殺された幼い男の子が、成長していき復讐をするって物語

だって『キング・アーサー』ってタイトルからして主人公が王様になるのはわかりきっているわけで、あとはその結末までどう持っていくかっていうのがミソなわけです

アーサー王物語はみんな知っていて耳タコなわけですから、それをどう料理するか

売春宿で育ったという設定上、主人公は口が悪くて見た目も全然王様っていう風格はありません(むしろ売春宿の用心棒みたい)

そんなヤンキー上がりが力で現国王をぶっ倒して王様になっちゃうっていう映画なので、英国王室を意識している人からしたら侮辱に感じるかもしれません

日本で売春宿の用心棒が天皇になるって映画を作ったらおそらくウケが悪いと思うので、この『キング・アーサー』という映画が欧米でウケが悪いのも仕方ないかもしれませんね(古事記によれば、ヤマトタケルだって女装して宴会でクマソタケルを殺害してたりするので、案外面白い映画にはなるかもしれないけれど)

残念ながらマーリンはハッキリとは映りません(魔法の杖を聖剣に鍛えるだけ)

その代わりにアストリッド・ベルジュ=フリスベ演じる魔術師が登場します

はっきり言って魔法の力を使えばもっと簡単に敵をやっつけられるはずだったり、展開がご都合主義だったり、主人公が聖剣エクスカリバーを使いこなせなかったり、まどろっこしい描写が多いです(この辺もウケが悪い印象です)

でもね、こうやってウダウダしながら成長していくっていうことなんですよ(だって主人公は帝王学を学んだ王子様じゃなくって、ストリート育ちのヤンキーなんですもの)

そうです、いわゆるこれって下克上映画なんですよね(言い換えれば成り上がり映画でもある)

貧乏で弱い立場の主人公が圧政を強いる現国王(親の仇)を倒すっていうすごくシンプルな構造

主人公が王様っぽくないのも含めて狙ってるような気がします(いわばストリート育ちのギャングがラップで有名になって金持ちになるようなそんな感じ)

さすがに主人公の俳優をアフリカ系にはできないから、ちょっと品のない感じの(失礼)チャーリー・ハナムなんでしょうね

個人的には冒頭の10分くらいで描かれる父親(前国王)の活躍からの、弟の裏切りからの母親が殺されるまでの流れるようなシーンの連続は素晴らしいと思いました(ダメな映画だとここだけで20分は使う。そして無駄に前編と後編に映画を分けちゃう)

たしかに主人公が成長するまでに時間がかかってはいますが、全体的にはコンパクトにまとまってると思います(ちゃんとこれ一本で物語が完結する)

余計な続編への伏線もなく、この作品単体だけで楽しめるのは好印象(逆にそのせいで続編いらないじゃんって結論になったとしたら可哀想だけど)

主人公がなんだかんだで人たらしなところとか、けっこう優しいところとか割といいキャラしているのも良かったです

そしてそれは悪役を演じるジュード・ロウの演技が素晴らしいからですね

強大な力を手に入れるために愛する者の命を捧げてまで権力に固執する男をよく演じてたと思いますよ(『グラディエーター』のホアキン・フェニックスには負けるけど。だってジュード・ロウがやるとなんか男前になっちゃってイマイチ悪者感がないんだもん)

ラスボス戦がCGバリバリだったり、アジトが簡単にやられすぎたりなどの粗は目立ちますが、ガイ・リッチー監督の独特なリズムの流れに合わせて観ていけば楽しめると思います

個人的にこの映画は親子愛を描いているんだと思うんですよね

主人公の父親も母親も子どもを逃すために犠牲になってますし

父親は聖剣エクスカリバーを敵の手に渡さないために自らを土台にして剣を守りますし(自分が死んで、息子である主人公にしか剣が抜けなくなる)

それに対してジュード・ロウ演じる悪役は自分の権力のために妻や娘を犠牲にするわけです

映画の中で個人的にお気に入りなのはバック・ラックというキャラクター

彼は主人公の友人で、息子と一緒に反乱軍に加わります

このバック・ラックと息子の結末もやっぱり親子愛だと思うんですよね

ガイ・リッチー監督にも息子がいるのでなんとなく監督の理想を描いている気がしてなんだかホッコリします

勧善懲悪の分かりやすい映画で、下剋上なアクション映画ですので、難しく考えなくていい娯楽映画

そして全編に渡って親子愛が感じられるちょっとあったかい映画でもあります

大勢の鑑賞者から、ものすごい酷評の嵐の作品のようですが、ぼくはおすすめします

以下蛇足

この映画は公開当時ハリウッドで最も大赤字を出した映画だそうです。なんせ1億5000万ドルも赤字を出したんだとか(日本の環境省の海洋プラゴミ対策費とほぼ同じ額です、約170億円。映画製作ってすごいお金かかるんですね。この額が赤字ってそりゃヤバイ)

どうやらアーサー王物語に忠実に作っておらず、独特な味付けをしてしまったのがウケが悪いようです

元々6部作の第一作目として作られたのに続編は立ち消えになってしまいました(個人的にはこの流れでの続編のほうが観てみたい気がする。ランスロットとの絡みとか)

『シャーロック・ホームズ』だってだいぶ独特な味付けがされていたと思うんだけど、そっちは許されてどうして『キング・アーサー』はダメなのかおそらく監督は理解できなかったことでしょうね(ぼくもその一人です)

『シャーロック・ホームズ』を観たことがあればアーサー王物語を独特な味付けするのは十分にわかっていたはずなので、そんなにムカつかなくてもいいように思いますけどね(おそらく、アフリカ系や中国系っぽい描写で違和感を覚えた人がいるんじゃないかな。ぼくは全然OKでしたけど)

大赤字映画として有名な『カットスロート・アイランド』みたいですね

『カットスロート・アイランド』も個人的には好きな映画なんだけどな(女海賊のリーダーってのが当時はウケが悪かったんでしょうけど、今の時代だったらウケた映画だと思います)

時代が変わればもしかしたら再評価される日が来るかもしれませんね(いや、たぶんこない)