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スペース・スウィーパーズ

古き良き娯楽作品って感じ。難しく考えないですむポップコーン映画。
コロナのせいで映画館から足が遠のいている昨今。ポップコーンを食べながら気軽に楽しめる娯楽作品は貴重な存在。
ステイホームで鬱屈している日々が、宇宙でゴミ漁りしている主人公たちの境遇に似ている。
主人公たちがみんなほんとは優秀なのに、冴えない日々を送っているあたり、共感できる人も多いはず。
麻薬王が子煩悩なのが個人的にはツボにはまった。あんな強面のいかにもヤクザって感じの人物が、女の子のために命をかけるあたりがグッとくる。
そう、お金と子どもがテーマだと思う。
もちろん表向きは「一部の富裕層に支配される圧倒的貧困弱者の逆襲」が物語の軸。
地球を破壊しといて自分たち一部の金持ちだけ、安全な軌道衛星に住んでいるっていうのがもう露骨に資本主義を批判している。
そしてその富裕層のボスが、爆弾で地球を滅ぼそうとするのは、もはや古き良き娯楽作品の使い古された設定(ファクトリーってまんま見た目がデススター)
にも関わらず面白いのはやっぱり上手に世相を反映しているからだと思う。
富裕層の会社の幹部たちを見ると、現実世界で富裕層になっているのはどういう人物かが、なんとなくわかるようになっていたり、表向きは市民のためと言っておきながら裏で汚いことを平気でやってるあたり。
特に悪役のボス、めっちゃ優しそうなイケメンってところがイイね(軌道衛星の人々に話しかけるときなんか、まるでコルコバードのキリスト像みたいな感じ)
女の人が船長と女の子以外ほとんど出てこないのが笑える。(女の子はギリギリカワイイかどうかの微妙なラインにしているのも上手い。あんまり美少女にしちゃうと思いっきりアンドロイドっぽくなっちゃうからか)
悪のボスの「貧乏人(劣等遺伝子)は生きる価値もないから死んで当然」っていう清々しいほどクズな動機がまた気持ちがいい(最近は悪役にも感情移入できるように変な設定入れすぎ)一応ナチスに親を殺されたのかなって匂わせる程度には設定を添えてあるあたり、作り手が優しい映画。
そう、随所に優しさが散りばめられてる。
それは登場人物が必死で女の子を守ろうとしたりしてすごく伝わってくる。
それでいて派手な流血はない(死体を引きずっていくのに血がついてないし、死に方も演技が下手すぎて雑。『荒野の七人』みたい)
外国人が多く端役で出てくるが総じて演技が下手。でもそれくらいでちょうどいい。逆に主要な登場人物たちの演技が光るし、残酷なシーンがそれほどキツくない(おまけにいろんな言語で喋るから、いい意味であんまり韓国映画っぽくない)
そういう計算してやってるんだかはわからないけれど、状況をうまく利用して映画を成功させちゃうあたり、韓国映画の凄さを感じる(高倉健の『荒野の渡世人』では外国人俳優のつけ髭が取れちゃってるのがまんま映っちゃっててガッカリした)
お金を稼ぐ力が本当はあるのに、税金などで働けど働けど貧乏になっていく主人公たちの境遇が、現実世界の労働者である観客とダブって見える(日本のワーキングプア問題と同じ)
そして事あるごとに金の力で解決しようとする悪役。金を渡しておきながら、それを受け取る主人公に「お前は善人ではない。これからも善人にはなれない。そうなる機会すら失った」とか散々煽ってくる(ええ、ものすごくムカつきます。ぜひ観てみてほしい。お金を配る金持ちってこういう気分なんだなって)
いい暮らしができるよって金をチラつかせながらその金にとびついたとたん殺すあたり、今までの映画のよくある悪役の描写とは違う、金持ち(富裕層)に対する怨念のような恨みを感じさせる。
家族のために金になびけって誘っておきながら、金になびいたものを散々罵倒して結局は金を渡さず殺す。これが現実世界の資本主義でいま起きている事なんだという暗喩になっている(自分の思い通りに操ったあと金は結局渡さず殺す。気骨のある人でも金のために信念を曲げたのに、結局報われない)
いくら働いても暮らしが楽にならず、富裕層がどんどんのさばっていく現状で、唯一の希望は子どもなんだっていうメッセージ。
その女の子をみんなで頑張って守る。みんな自分の子どもじゃないのにね。
血が繋がっていなくても、みんなが子どもを守って大事にしていく社会になることが、唯一の対抗手段だとこの映画ではくどいほどメッセージを伝えてくる。
初めは子どもを爆弾扱いする(どう扱っていいかわからない。こわい)そして金目当てで大事にする(金になるなら世話してやるよ)からの、最後は無償の愛に変わる。
子どものいない人の育児へのプロセスをこの映画では描いている。
少子化問題が顕著な韓国映画ならではだなと思った。
金と育児(少子化)という現実世界で韓国という国が抱えている問題をストレートにそしてわかりやすく伝えてくる作品。
もちろん金(経済)と育児(少子化)の問題は日本も例外ではないし、どの国も今は多かれ少なかれこの問題を抱えている。
だからこの映画は広くいろんな国の人々に受け入れられる結果となると思う。
貧困によって子どもを諦めざるをえない状況(金を稼ぐのに必死で育児できない)をサラッと映画の流れで見せるのが上手いと思った。
大企業の処分ひとつで全財産を失うあたり、まるでアカウントBANされたYouTuberみたいだ。
個人情報がずっとついて回って、一度線路から外れるとまともな就職もできずにずっと日陰暮らしになるって現実を、映画でいやってほど見せつけてくる。
こんなに金に関してエゲツない(『カイジ』も真っ青)な映画なのにSFという世界にしているから娯楽作品として観れる(同じく子どもを守る『トゥモロー・ワールド』はかなりシリアス寄りになってるから娯楽ではないけど、この作品はSF寄りの軽い感じ)
映像が綺麗だから、古臭いシナリオの映画でも面白く観ていられる。
そしてその古き良き娯楽作品に現実世界の鬱憤をこれでもかと、てんこ盛りにしちゃってるので、これはもう面白いに決まってます。
難しいこと考えなくても、なにかをポリポリつまみながら頭空っぽで観ても楽しい映画(宇宙船とロボットが出てくる)
ちゃんと流行りのLGBTQ要素も取り入れているのが現代風の味付けになっている(ロボットを見ると男だと思ってしまうのは固定観念だと思い知らされた。もしかしてC-3POも本当は•••)
よくある「自分を犠牲にしてみんなを守る系のシーン」なのにそこは安心して見てられるように、工夫がしてあるのもイチイチ憎い演出(最近じゃハリウッド映画のほうがよっぽど自己犠牲の安売りしてる感じで食傷気味)
こういう現実世界の鬱憤を映画という形に変えて観客のストレスを発散させる映画って、日本映画のお得意分野だと思ってました(忠臣蔵とかあるでしょ)でも韓国映画のこの作品を観てしまうと、日本映画にはもっと頑張ってもらわなきゃと思います(『散り椿』とか『空母いぶき』とかにはがっかり)
主人公が敵と格闘するシーンは編集が上手いせいでとても鮮やかに倒したように見える(漫画的演出で、動画の中に静止画っぽいのを短く入れて強調してる。殺陣が下手でもそれっぽく見える工夫がしてある。『散り椿』にもこういう工夫が欲しかった)
造形が微妙に既視感があるのもご愛嬌だろうか(兵士は『チャッピー』と『HALO』を足したような感じで、勝利号は『スターウォーズ』のファルコン号と『エイリアン』に出てくるノストロモ号を足した感じだし、町は『ブレードランナー』にそっくりだし、冴えない主人公が宇宙を救うのって『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』)
既視感があるSFのおかげで違和感なくすんなりと世界観に入り込めるのは娯楽作品としてはいい点。
いろいろな作品の要素を取り入れて娯楽作品にするっていうのも本当は日本映画の得意分野だと思っていたのでちょっと悲しい(主人公のセリフで溶鉱炉って出てくるけど、『ターミネーター2』のことだよね。いろんなパロディが感じられる映画になってる。そもそも宇宙ゴミの回収ってコンセプトは『宇宙のプラネテス』って作品がすでにある。実に惜しい。なぜ日本映画で作れなかったのだろう)
社会不安で人々の心がギスギスしている昨今、こういう頭空っぽで観られるエンターテイメントは貴重だなと思いました。
笑って泣けてハラハラして、久しぶりに娯楽映画らしい作品を観たなって思います。人にオススメしやすい映画。