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ディア・ハンター

ディア・ハンター

しっかり観ていないとわからないくらいに、やけに人間臭い描写の映画
人間臭い描写があるから、そこに実際に人間がいると思える(つまりキャラクターがたってる)
えっあなたピアノ弾けるの?とか
えっあなたの子どもじゃないの?とか
きっと驚く事実に気がつくはず。
ボーッと観てると聞き逃したり見逃したりしてしまう。
退屈な展開の中で唐突に情報が新しく入ってくるので、ちゃんと人間観察しないと置いていかれる映画(冗長なように見えて実は情報量がすごく多い。ただ観てるだけだとすべてを把握するのは難しいと思う)
なんていうか、常に間違い探しをしながら映画を観ているような気分。
探偵になりきってだれが嘘をついているのか推理するような、そんな参加型の鑑賞を強いられる。
参加型なので、ボーッと観てるだけではわかんないことだらけの上に大変退屈に感じる映画。
これ、今の時代に作り直したら多分60分くらいで終わっちゃうお話。
そこを細かい人物描写と演技で肉付けをしていく。
例えば、ロバート・デ・ニーロに無理やり自分の女くっつけといて、メリル・ストリープが自分と結婚したいって言ってきたところでニヤニヤするクリストファー・ウォーケンとかね(性格悪くない?)そんでやっぱり「出征から帰ってからね」とごまかす(モテるからって調子乗ってる)
たとえばロバート・デ・ニーロがメリル・ストリープが家にやってきたときに、目を合わせないようにそそくさと出てったのはなんでだろうなとか
出征から帰ってきたロバート・デ・ニーロがなぜ鹿を撃てなかったのかとか
細かい描写をしっかりと理解しないとこの映画はなんだか退屈で訳がわからないことになる
太った友達が立ちションしてる隙に車で置いてけぼりにするシーン(いじめ!)なんか、ワンカットで長回しで撮ってる(なんという変態的なこだわりなんだろう。どうせならほかに長回しすべきシーンがいっぱいあるはずなのに、あえてこの立ちションという悪ふざけを大事な日常に据え置いている)
こういう一見無駄とも思えるようなシーンを丁寧に作っているのがこの映画の特徴
だからこの細かい部分がわからないと、テンポの悪い映画という印象になってしまう
登場人物の動きやセリフから、この人は普段どんな感じの人でどういう性格なのかなと考えながら1時間くらいある結婚式のシーンを観なくちゃならない(ある意味で拷問に近い)
なにも考えずに観ていると退屈だし、この映画自体の良さ(平常から非常、戦争で日常が崩壊する。戦争によって壊れたものがずっとつづく)が理解できなくなってしまう。
この映画で出てくるロシアンルーレットは、いわば「戦争で死ぬ確率」を表しているように思う
6分の1という確率は決して高い確率ではない
だがそれで運悪く命を落とすかもしれないし、助かるかもしれない。6分の1の確率(約17%)で死ぬ。6分の5の確率(約85%)で生還する。
助かってもその幸運がいつまでもつづくとは限らない。何度もやってれば17%の確率でもいつかは死ぬ計算になる。
戦場も同じ
運悪く戦死する者もいれば、生き残る者もいて、生き残った者も次の戦いでは命を落とすかもしれない。
どんなに優秀でも強運の持ち主であっても、積み重ねることで死に近づいていく(それがクリストファー・ウォーケン)
どんな戦争でも生き残った者もいれば死んだ者もいる
そういった「命を確率で危険に晒す行為」=戦争というものをわかりやすく表現していると思う
自分は死なないし、生還者がたくさんいて戦死者の方が圧倒的に少ないからとタカをくくっていると危ないという現代人への警鐘になっている。
引き金を引くのは自分、つまり戦争に参加するのも自分ということで、自業自得と表現しているのだろう
こんな悲惨な目に遭うわけないと戦争に参加する者は、自分は実弾にはあたらず空砲にあたるはずという思考で、ロシアンルーレットをしているようなものなのだ
たったこれだけの主張のために退屈とも受け取られかねない時間を使うのがこの映画の策略
映画が長いように人生も長いもので、映画の中で戦争シーンが短いように、人生の中でも戦争に参加する時間は短い
それにも関わらず、ここまで人の心や生き方や日常を変えてしまい、もう元には戻らないということをこれでもかと訴えてくる。
下手な反戦映画よりもよほど戦争について考えさせられる映画となっている。
間違いなく名作だと思うんだけど、いかんせん人にオススメしにくい映画(こんな長い映画観るなら『地獄の黙示録』の方を観る人のが多いと思う)
でもこのロシアンルーレットというモチーフを戦死の確率にひっかけるアイディアはとてもすばらしいと思う。
戦争で生き残るかどうかは結局運であって、そこには正義も神様もいないっていう冷酷な真実を突きつける。
自分だけは助かるだろうという根拠のない自信も、死ぬかもしれない恐怖さえも、確率に自分の命を賭け続けることをすることで感覚がマヒしていくのだろう。
戦争を経験していない現代日本人が増えていくこの国でロシアンルーレットでの表現がどこまで伝わるかは不透明なのが残念(日本は銃社会じゃないのでロシアンルーレット自体がよくわからない人が多いと思う)
命や日常を大切にしようと思えるいい映画なのでした。

以下蛇足
ところで有名なロシアンルーレットのシーンで疑問がある。
ベトナム兵を挑発して弾を増やすんだけど、実は3発足しているから合計4発で、マイケルの後にニッキーが空砲を撃ったから、次は確実に弾が発射されると思ったんだろうけれど、音をよく聞いているとニッキーに渡す前にまた弾倉を回転させているように思う。
審判役のベトナム兵が改めて弾倉を回してる音が入ってる。
つまりマイケルの手に渡った時点でまだ空砲が残っていたように思うんだけど・・・この後の展開が急なので失念しがちだが、マイケルはなぜあんなに自信満々に撃てたんだろうか?
弾倉を回転させる音がしたから、確率としてはニッキーの空砲1発分を引いた残りが、5分の4が実弾で5分の1が空砲(弾倉を回転させてないなら、空砲2発撃ったから残りは全部4発実弾だとわかるけど)
つまり5分の1の確率で作戦が失敗して(空砲を撃って)たと思うんだけどなあ。