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マザー!

世界を100人の村に例える話があるけれど、では地球が一つの家だったら?という映画

とりあえず一切前情報なしのネタバレなしで鑑賞するのをオススメ

上記の文章だけでもだいぶネタバレになってる気がする

でも早い段階でこれに気が付かないと、ただひたすら不愉快な映画になる

気ままな夫が神でそれに黙々と従う母なる大地(妻)という構図がどうしてもパワハラ夫の被害に遭うおとなしい妻に見えてしまうから、よりいっそう観客としては不愉快になる

僕がこの映画が聖書をなぞらえていると確信したのは兄弟喧嘩の果てに殺人が起きた時

これってカインとアベルのことだと気づいた時にすごく腑に落ちた

そういえばアロノフスキー監督はノアの箱舟も映画の題材にしてた(『ノア 約束の舟』)から、聖書を題材にするのが好きなんだと思う

『ノア 約束の舟』は完全にダークファンタジー風の作品だったからわかりやすかったけど、この『マザー!』という作品は一見すると現代風だからすごくわかりにくい

神(創造主)である夫がスランプに陥っている詩人というのが、自分を崇めてほしい気持ちを燻らせているという表現になっている

詩人の書くものは神の言葉となるわけ

そして詩人のファンになるということは神の信者になるということ

アダムとイブ(特にイブ。かなりズケズケと言う)に触発されて母なる大地(地球である妻)が子ども(イエス・キリスト)を産んだというのがすごく単純に描かれている

この「あんたも子作りしたら?」というミシェル・ファイファーの演技が上手すぎてすごく憎たらしいので、たぶん大多数の子供のいない鑑賞者はここで鑑賞をストップしてしまう気がする

このことがキッカケでイエス・キリストが誕生するっていう伏線なんだけど、神が自らの創造物であるアダムやイブに触発されるなんてことがあるんでしょうかね

まあイエス・キリストは神の子なわけで、アダムとイブのほうがイエス・キリストよりも先に存在していたわけだから、ストーリー的には自然な流れなんでしょうけれど

そこまで深く考えるまでもなく、不愉快だと感じてつまらないって思っちゃう鑑賞者が多数続出すると思われます(それくらい演技と脚本がうまい)

わかってしまえばこの映画はすごく単純だし、言いたいことも散々使い古された説教(人は過ちを繰り返す愚かな生き物で救いようがない)で、根本のところは『風の谷のナウシカ』と主張してることは大きく違わない

地球上で神を信じる人は大勢いるわけで、そして宗教によって平和になるどころか争いが起きてしまう

神は本気で止める気は無い

それは夫の「彼ら(神を信じる人間)に(地球に)いてほしいんだ」というセリフにあらわれている

地球としては時折怒りを爆発させて彼ら(人間)を追い出そうとするけれど神はいつだって人間の味方をして地球(妻)を蔑ろにしてしまう

この映画ではハッキリと断定してしまっている

神は自分のことしか考えてないと

分け与えなさい、という教えのもと家のものまで勝手に大衆が奪っていくのは地球の資源を根こそぎ奪っていく環境汚染のことに他ならない

神としてはやはり傍観している

観客を含む人間にとってはありがたいことだが、地球にしてみたらたまったもんじゃない

ぼくがこの映画で一つ気に入らないのは、地球が何回でも作れるという考え方のところ

地球は一つしかないのでみんなで大事に使う必要があると思います

ところで神を信じていない人はどういう扱いになるんだろう

たぶん図々しく家に入ってきて具合が悪いから寝かせてくれって言ってたおじいさんみたいな存在なんだろうか

それともトイレが我慢できなくて借りにきた母子みたいな存在なんだろうか

いずれにしても聖書に馴染みのない日本人としてはなかなか感情移入しにくい映画だと思います

そもそも日本は八百万の神だし、日本人の宗教観ではこの映画は理解できない

でもいずれにしても人間が自分のことしか考えずに神がなんとかしてくれると盲信して地球を傷つけるのは良くないというこの映画の普遍的な訴えはしっかり伝わりました

そもそも神様が自分のことしか考えてない時点で救いようがないという痛烈な皮肉もこの映画は含んでいるわけだけど

崇めてくれる人を拒絶できないから地球(家)にどんどん人が集まるわけで

しっかりと地球(家)の面倒を見ればいいのに「片付けなくていい」とか言って自分は何にもしないんだから地球はどんどん汚れていくよね

もしも神様が存在しているなら、どうして地球汚染や人間の争いに介入して問題解決しないのか?

そういう疑問はこの映画を観れば解消されるはず

要するに神様はそこまで関心ないんだよね

自分の言葉に感動してくれる人がいればそれで満足であって、逆に誰からも見向きもされないっていう状況が一番嫌い(神様であってもその行動理念は承認欲求によるものであるという主張は、とても興味深いと思います)

神様であっても、やってることや考えていることはSNSで神と崇められるくらいのフォロワー(信者)を集めたいと願う人間と同じってこと

つまり聖書になぞらえて神について描いているし、地球環境を汚している人間が愚かだっていうのも描いているんだけど、実は神様が諸悪の根源だっていう身も蓋もない結論をこの映画では主張している

地球のために神に祈りを捧げるのではなく、地球のためには神なんか信じてはいけないっていう逆説(宗教が原因で争いが起きるし、それによって地球が汚染されるから)

聖書や神様やイエス・キリストについて描写しているのに根本的に宗教を批判しているというかなりの離れ業を成し遂げた映画

これはやっぱり賛否両論あると思う

日本では劇場公開されなかったみたいだけど、まあそうだろうなって感じ

欧米でも賛否両論なのは聖書(神)をどこまで信じるかによって映画の評価が変わるからだと思う

敬虔なクリスチャンの人はたぶんこの映画を不快に思うだろうし(神が諸悪の根源って受け入れられないでしょう)

そもそも聖書の知識がない人は、ひたすらパワハラでモラハラな夫に虐げられる妻の物語で不愉快になるし

聖書の知識がありつつ、神や宗教についてのめり込んでいない、冷静に一歩引いた位置から鑑賞できる人にしかこの映画は伝わらないと思う

そういう意味でかなりニッチな層に向けた映画と言える

無宗教な日本人にこそ伝わるチャンスがあると思うけれど、肝心の聖書の知識がなかったり、そもそもそれに気が付かないで鑑賞してしまう人が多いだろうから、やっぱり日本ではウケない映画なんだろうな(マザー!ってタイトルだし、手が血塗れの女のポスターじゃただのホラー映画だと勘違いされても仕方ない)

神について考えるとき、ハビエル・バルデムのニヤケ顔が頭にチラついてしまうようになっちゃうし

でも、地球のためになにかしようと考えるとき、ジェニファー・ローレンスの喜ぶ顔を思い浮かべればリサイクルも楽しくなる・・・のかな?

擬人法という古典的な手法で、聖書という古典的な物語を、過ちは繰り返されるという古典的な主張で作った映画

ジャンルがよくわからないという感覚をぜひ味わってみてほしい

この映画のジャンルはなんだろう?

ファンタジー?サスペンス?オカルトホラー?ヒューマンドラマ?ホームドラマ?ブラックコメディ?それとも宗教映画?

個人的には新しい感覚のホラー映画である『ミッドサマー』みたいな、新しい感覚のブラックコメディ映画だと思う

あまりにも図々しい人たちと事態を収拾させる気のない夫を観ていると、もはや乾いた笑いしかでませんでした(家の中がどんどんめっちゃくちゃになるので潔癖症だとキツいんです)

自分が今観ているものは一体どんな映画なんだろう?という不思議な感覚を味わえるので、個人的にはオススメの映画

でもこの映画の深みを知るにはネタバレした上で紹介しなければならないし、ネタバレ知ってから観るとどんな映画なのか、なにを表現しているのか単純でわかりやすいから不思議な感覚は味わえないし、とても歯痒いですね

とりあえず一切前情報なしのネタバレなしで鑑賞するのをオススメ(大事なことなので2回書いたけど、もう手遅れですね)