「金持ちが裕福なのは貧乏人を使い捨てにするからだ」というセリフに全て表現されている
金持ちのために貧乏人が犠牲になる
使い捨てにされている
そして巧妙なのが、貧乏人の中でもいがみ合う構造を作ったこと
貧乏な白人は黒人を差別することで自分は白人であるという優位を感じるようになっている
日本の士農工商にえたひにんを作ったようなもの
えたひにんは同じ黄色人種なのでぱっと見はわからないが、肌の色での差別はとてもわかりやすくてそのため根が深い
そしてこの差別意識はそのまま黄色人種は猿と同じという考えから戦争を仕向けられ挙げ句の果てに原爆を落とされた唯一の国となっている日本(相手を同じ人間だと認識していないからこそ、大量殺戮兵器を使える)
貧富の差は差別を生み、差別というものは戦争に発展する
そして貧富の差を生み出して差別を作り、戦争で儲かるのはいつも金持ちという構造も昔から変わらない
貧乏人はいつだって損をする
ではここから脱却するにはどうするべきか?
この映画では二つの方法を提示している
主人公の子供を治療した黒人女性が必死に文字を学んでいること
つまり一つ目は勉強(教育)であること
馬鹿な大衆は扱いやすいという権力者(金持ち)の考えで、貧しい人はより貧しくなるように勉強しない環境に陥っている
事実、高学歴な人はお金持ちが多い。日本の東大生は実家がお金持ちが大半だし、アメリカも高学歴になるためには実家がお金持ちでなければならないのは現代社会でも同じ
学歴がないとそれだけで貧しくなってしまうし、学歴の差はそのまま貧富の差に直結する
ただし、この映画での勉強というのはなにも受験戦争に勝とうというのではない
この世界の仕組みについて学ばなければならないということである
それはこの黒人女性が治療師であるという設定(つまり医者)であることから読み取れる
主人公の子供の病気を助けたくらいで頭はいいのである。
ただし字が読めないがためにこの世界のことがわからない(例えば新聞も読めないから世界情勢がわからない)
主人公の助けを借りて読めるようになったと主人公に聞かせるのが創造期の一説である。
つまり字を読めるようになったことでこの世界の成り立ち(金持ちがいかにして貧乏人を虐げているか)を知ったというシーンになっている
この大事なシーンがすごく地味にサクッと描かれているのでボーッと観ていると気がつかないがとても大事な場面だと思う
そして二つ目は白人と黒人が協力すること(貧乏人同士のいがみ合いをなくすこと)である
南軍の徴収係から穀物を取り返し、豚の丸焼きでお祝いをした後、残り物の豚肉を黒人が少し取り分けようとするシーンである
気がついた白人が「もどせ」と言って黒人には豚肉をあげようとしないのを主人公のニュートンが「おまえも黒人と一緒だ。金持ちのために戦わされている」と言って黒人に豚肉をあげる。そして「いがみ合いはもうたくさんだ」と言って歩いていくシーン
ここにこの映画の主張が表現されている
同じ貧乏人同士でいがみ合うのではなくて、お互いに協力することが大事だということ
金持ちのためにいがみ合っていることに気がつくことが大事だと
そして主人公は「なにか弾いてくれ」と言い残す
音楽が人々の気持ちを一つにするという大事なシーンだと思う(ラップやジャズなどの黒人音楽は白人も大好き)
まあもっとも、立憲民主党と共産党が連立を組んだところで戦後三番目の投票率の低さから自民党に惨敗する日本ではこのシーンはたぶん響かないんだと思う
日本人はなんだかんだ言って官軍側が大好きな民族なのであります
負ける側を応援したい人よりも勝っている側を応援することで、自分は優位な側であると感じて安心したいのだと思う(なんだかんだ言ってもジオン軍のザクより連邦軍のガンダムのほうがみんな好きでしょ)
だから日本人の投票率も上がんないだと思います(自分が応援したところでどうせ負けるならわざわざ投票に行っても同じだという心境。そのくせ消費税が上がるのには反対するという矛盾。投票率が上がれば消費税は下がり、投票率が下がれば消費税は上がるという構造に多くの人が気がつきますように)
お互いがいがみ合うのをやめることが大事だという主張はとても深いと思います
日本でも就職氷河期の人々は学歴があってもコネがなかったりして正社員になれず、仕方なく非正規労働者となった人たちが大勢いました
そしてその就職氷河期に正社員になれた人と非正規労働者になった人との間でいがみ合いがあるように思います
「おれはお前らより努力したんだ」と正社員になった人は言うでしょうし「お前らは運が良かっただけだ」と非正規労働者になった人は言うでしょう
これがいがみ合いの原因ですね
そして就職氷河期よりも前のバブル世代の人たちは売り手市場で就職は選り取り見取りでしたので、その人たちからすれば就職氷河期で苦労した人たちを見てもたぶんピンとこない
そしてバブル世代の人よりも前の戦後の金の卵世代の人たちは所得倍増の時代だったので、やはりバブル世代の気持ちはピンとこない
こういう世代間格差を是正しないできたツケが少子化となって現代日本を苦しめています(その証拠に日本政府のトップ陣はみんな高齢者ですね)
お互いがいがみ合う構造は日本人も大好きで、このいがみ合いを無くさないかぎり、共通の敵である金持ちは倒せないという主張をこの映画は繰り返し繰り返ししつこいくらいに強調してきます
もっと世の中の仕組みに目を向けて(勉強)お互いがいがみ合うのではなく協力するしか金持ちの作った貧乏人政策に対抗する手段はないとこの映画では主張しています
リンカーンよりも早く黒人の地位を認めた人物ではありますが、この主人公はただのお尋ね者なわけで、歴史的には飲み屋で政府を批判しているおっちゃんと扱いはあまり変わりません
そのためマイナーな人物であり、マイナーな人物を扱った映画であるこの作品もマイナーなものとなってしまい、結果として盛り上がりにかけてしまったんだと思います(例えばこれがリンカーンだったら有名だからこの映画ももっと興行的に成功しただろうけれど)
そもそもこういうマイナーな人物に目を向けることが、世の中の改革の第一歩であるというなにか信念のようなものを鑑賞していて感じましたね
個人的にはアンパンマンよりはバイキンマンを応援したくなるし「負けるな一茶これにあり」という句が身に沁みる今日この頃なので、この映画の主張が心に刺さりました
この映画の差別問題を強調するため、あえてアフリカ系アメリカ人という表現ではなくて黒人という表現を使用しています