卒業クラス 画像

卒業クラス

刺さる人にはめちゃめちゃ刺さる、癖の強い映画。ほとんどの人にはたぶん退屈だしイライラする内容

もはやこの映画日記の常連になってしまったヨン・サンホ監督が脚本を担当した作品(今回、監督は別の人が担当)

これでわかった

ぼくはこの人の作品が好みなんだってことに(主人公がモテない男というところに共感を抱いてしまうのです)

『卒業クラス』は青春映画

卒業展示会を控えた美術大学のゼミを舞台にして、二人の男と一人の美人の三角関係を描いているだけの作品

もうね、展開自体は全然ひねりがないし、むしろ王道すぎてなにも書くことないです

美人とモテない主人公とチャラい男友達が登場したら、そりゃそうなるよねっていう感じ

ではこの映画、なにがいいかっていうと全体に漂う哀愁、これに尽きる

なんかねえ、全体的に古臭いんですよ(ほめてる)

ようするに美人女子大生がフランス留学費用を稼ぐために水商売してるっていうだけの話なのに、みんなが大騒ぎするのが微笑ましい

日本では過去最高の梅毒感染者がいるってんで各自治体が注意喚起してるっていうのに、『卒業クラス』の美人女子大生はたかがキャバクラでバイトしてるっていうだけなんですよ

日本の梅毒感染者のうち、女子の感染者に関しては圧倒的に20代が多いことからまあだれもハッキリとは言わないけど、マッチングアプリを通してのパパ活と呼ばれる売春が温床になってるのはなんとなく想像がつくところ

現代日本人の我々からすると、パパ活だのなんだので身体を売っている女子大生なんてそこらにいくらでも転がってるでしょって感覚なので、『卒業クラス』の美人女子大生(ジュヒ)がキャバクラでバイトしてるくらいで周りが大騒ぎするのが、なんだかホッコリする

パパ活が身近になって梅毒感染者が増えていることに危機感を覚えない我々日本人に対する静かな警告をこの『卒業クラス』では感じるのです

せいぜい80年代くらいまでだったら日本でもこの脚本(美人女子大生がキャバクラでバイトして大騒ぎになる展開)でもOKかもしれないけれど、さすがに現代日本人の我々には響かない

でもね、本来学生さんが水商売でバイトしなければいけないこと自体がおかしいんですよ(もはや現代日本人の感覚が狂ってる)

この『卒業クラス』の美人女子大生は純粋にフランス留学費用を貯めるために水商売してたことが映画の全編を通して描かれる

健気じゃないですか

だって、ホストにハマってパパ活する女子大生だっているのに、純粋に自分の学業のために働いてるんですから

この古臭い脚本に、文字通り絵に描いたようなモテない主人公という鉄板の組み合わせ(とくにぼくみたいな古風な人間にはハマる組み合わせ)

主人公が美人女子大生のために教務課まで行って調べてきてあげたり、パソコンで卒業制作を手伝ってあげたり健気に尽くすところが80年代のメッシーアッシーミツグくんみたいで懐かしさを覚えるんですよねえ

この美人女子大生はなかなかイラつかせるキャラクターで、自分の卒業がかかってるのに教務課に自分自身で調べに行かないし、主人公に面倒なことをやらせておいて自分はちゃっかり主人公の友達の陽キャラとキスしたりしてイチャイチャするというクズっぷりもなかなかいいです

健気なようでいて、自分に惚れてるって丸分かりのモテない男はとことん利用するし、自分の目的のためなら簡単に股を開くというユルいキャラクターなのがいかにもモテない男の描く美人女性像ですねえ

モテる男はおそらくこの陽キャラの立場で観るでしょうから、適当に女をあしらって、美味しいところだけ持っていくという役回りにむしろ共感を覚えるでしょう

そして「ああ、こういう女いるよねえ。性格悪いんだよなあ」と妙に納得するはず

そして『卒業クラス』の美人女子大生のような女に振り回される感じが、いかにも学生時代に寂しいモテない男だったかを思い浮かべてハマる人はとことん共感してハマるのでしょう

余談ですがこの脚本をかいたヨン・サンホという人物はおそらく学生時代にモテない経験をした気がしますねえ

個人的にはモテない主人公の心情も一部を除いて理解できるし(ぼくだったら教務課のことはちゃんと真実を話すけどね。だって結局そのことで教授がウハウハになっただけでだれも得してないし。つまり学校のHPに書き込んだのは教授が怪しい)

モテる陽キャラの心情でも楽しめるし(なんだかんだで一番おいしい思いをしてる)

美人女子大生みたいな女の人いるいる〜とまるで女子会で悪口を女友達と言い合う気分で楽しく鑑賞できました

それにしてもたかがキャバクラでバイトしたくらいであそこまで大騒ぎするなんて、なんかすれてないっていうか、ウブっていうか・・・明確な言葉で表現はされてないけど主人公は童貞なんでしょうね

いい意味でも悪い意味でも女性に対して幻想を抱いちゃってる(だって美人女子大生のことを天使としてWeb漫画に描きこんじゃってるし)

いくら学業のためとはいえ、キャバクラのバイトしてる女の子を天使扱いしちゃうのは、あまりにも女の子に幻想を抱きすぎなんだよっていう表現ですね(見た目が清楚だからって天使ではないんだぞ、というヨン・サンホさんからの警告ですね)

そしてまんまと手玉に取られるっていう

美人女子大生の立場からしたら、別に付き合ってるわけでもないのに勝手に彼氏ヅラしてきてウザいってことなんでしょうけど、どう考えても利用してるのがミエミエ(映画の最後で「私のこと好きだったんでしょ?」って主人公にきいてるし確信犯)

迷路で迷わない最短ルートは行き止まりを黒く塗りつぶすっていう演出、これも優しいヨン・サンホおじさんからのモテない男へのアドバイスになってる

ようするに自分の黒歴史としてさっさと塗りつぶして次へ進めってこと

人生は迷路のように複雑だけど、行き止まりを黒く塗りつぶしていけば出口への最短ルートがわかる

つまり自分の人生で行き詰まったらそれ以上深追いするのではなく、その都度黒く塗りつぶして別に道(方法)を試していけばいいってことですね

だから最後主人公が塗りつぶした行き止まりの道は一本だけなんですねえ(主人公にとって行き止まり[挫折]はまだ今回の美人女子大生のジュヒとのことだけだから。これからさまざまな女性と出会ってその都度挫折を経験していけばいつか出口に出られる=答えが見つかる[幸せをつかめる]ということ)

塗りつぶした道が一本だけ(ジュヒとのことだけ)だったことからもやっぱり主人公は童貞なんだろうなあってのがここでわかるようになってます

セックスの相性が悪くて女と別れたいっていう陽キャラの友人のこともイマイチ理解できないのも、主人公が童貞だからなんですね

わかる人にはわかるようにするためにこの「セックスの相性が合わない」ベッドシーンをとても丁寧に描いています(なるほどそこがダメなのねえ、って。でも言葉だけだと伝わらないので、特に経験のない主人公はサッパリ理解ができません)

ベッドシーンがただのサービスシーンで入れてるのではなくてちゃんと意味があるところに好感が持てます

日本のアニメでもこういう作品を作ってほしいなあって切実に思いますねえ

なんていうか、どことなく今敏監督のアニメ映画っぽいっていうか

最近、こういう大人向け(エロい意味じゃなくて)のアニメ映画がない気がしますね

高校生とか大学生くらいの時にこの『卒業クラス』を観ておくと、いろいろとヨン・サンホおじさんからの警告やアドバイスが盛り込まれててタメになるんですけど、面白いなあって思えるのはある程度人生経験積んでからになるので、難しいなあ

日本を舞台にしてたら脚本があまりにも古臭いので(スマホが登場してるのに80年代テイストは無理がある)やっぱり韓国アニメ映画ならではなんでしょうね

ちなみに同じヨン・サンホ作品でも『ソウル・ステーション/パンデミック』では普通に風俗嬢のヒロインが登場するので、やはりあえてキャバクラでのバイトという設定にしたんでしょうね(つまりやろうと思えば風俗嬢設定にもできたのに、水商売のバイトという設定にやわらげてるのはワザとなんですね)

この映画いいよ〜ってオススメされて、どこが?ってきかれて説明するといろいろどういう人生経験してきたかわかっちゃいそうで恥ずかしい映画ですねえ(このことがあるから、じつはいちばんイヤらしい性格してるのは美人女子大生でも教授でも陽キャラでもなくて、脚本をかいたヨン・サンホ自身なんだろうなあって思います)

淡い色使いと音楽の合間に80年代テイストのトレンディ青春ドラマが繰り広げられる、クセの強い作品ですので好みは別れますが、個人的には好きです

惜しいのは吹替がなくて全編韓国語な点でしょうか

でも日本語だったら舞台が日本っぽくなっちゃって、前述したとおり脚本に無理が出てきちゃうので、これはこれでいいのかもしれません

梅毒感染者の増加傾向の歯止めがかかることをうす〜く期待しつつ、この映画を観る人が悪い女に引っかかりませんように祈ります